Tuesday, June 12, 2007

『知恵の樹』10000部に

チリ出身の二人の生物学者、ウンベルト・マトゥラーナとフランシスコ・バレーラの一般向けの本『知恵の樹』をぼくが訳したものが、増刷が決まり、累計1万部に達した(ちくま学芸文庫)。

翻訳は最初、朝日出版社から大判の絵本のようなかたちで出版(1987年)。原著はスペイン語、ぼくの2冊目の翻訳書だった。それが1997年にちくま学芸文庫に入れていただいて、さらに10年を経ても読まれつづけている。こうなるとこの分野の「定番」として定着したと見ていいだろう。ほんとうにうれしいことだ。

生物の「オートポイエーシス」(自己組織化)を、生命が生き延びるためにいかに「世界」を認識するかという視点からまとめた、壮大な地球生命史=認識論。ぼくにとってはいろんな問題を考えるときの発想の基盤をなす、大切な本だ。

パリで活動していたバレーラさんとは、結局手紙のやりとりだけで、彼はもう亡くなってしまった。ほんとうに残念。でもその志の小さな一角を、こうしてろうそくの火を守るように守ることができて、うれしく思う。

たぶん、これからもしばらくは読まれてゆくだろう。かれらの認識の背景にあるのが1973年9月11日のチリの軍事クーデタだという点は、「訳者あとがき」でふれた。悠久の時を相手にするような進化生物学でも、時の状況から無縁ではありえないということに、粛然とした気持ちを覚える。

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